サンティアゴ巡礼12日目

アソフラからサントドミンゴ デ ラ カサダーラへ。

 

寒い

 

昨日は雨の中の行軍で手先 足先まで冷え切った。

今朝はアルベルゲを出た瞬間に寒い。

雨はもう止んでいるが、空には雲が低くたれこめている。

 

寒い

 

携帯を見ると表示温度が7度。

まだ9月の10日。二日前まで30度の直射日光を浴びていたことが嘘のようだ。

 

途中でフェイスブックのライブ配信をするが

電波状況が昨日につづき悪く、途中で断念。

まだ 昨日の続きで

ちぐはぐなままだ。

 

畑の中を歩き続ける。

 

冷気で頭が痛い。

 

雲が切れ始めて、わずかだが日の光が差し込んできた。

天使の階段のように光が天から降り注いでいる。

 

冷気が和らいできた。

 

それとともに3人の間に会話が始まった。

 

心に余裕が生まれる。

 

暖かさは心にも温かさを与えてくれる。

 

そんな当たり前のことに気づくのもカミーノだ。

 

明るく話す僕たちは

はるか前方を歩く二人連れに追いついてみようということになった。

 

ギアを上げる。

 

歩幅を少し広げ、歩みを速めてみる。

 

身体に負担はない。

 

目の前のふたりが近くなってくる。

 

今までにないことだ

 

これまでは抜かされてばかりいた僕たちが

 

あまり無理をせずにスピードアップして前を行く人たちに追いつき

 

「ブエン カミーノ」と声を残して先に行く。

 

爽快な感覚

 

歩みのギアを上げることが心のギアもあげることになった。

いや

心のギアが上がったから歩みのギアが上がったのかもしれない。

 

前方に次の村シルエニャが目前だ。

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シルエニャの村は今まで通り過ぎてきた村々とは趣が違う。

古い城壁があるわけでもなく

カセドラルがあるわけでもない。

 

そこには新しいマンションや戸建ての住宅とゴルフ場がある。

いわゆる新興住宅地だ。

 

しかし、販売に失敗したのだろうか入居者が少なく人の気配がしない。

 

巡礼の道の横にゴルフ場があり、そこにカミーノを示すホタテ貝のモニュメントがあった

 

そのモニュメントにいたずら書きがされていたが

それが秀逸というか見方によれば面白い。

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まるでフリーメイソンの象徴のようだ。

 

そう思うと、いろいろと想像が膨らむ。

 

大金を投じて開発をしようとした新興住宅地、

そしてゴルフ場。

 

その横を通る巡礼の道。

この道は1000年以上も続く聖なる道だ。

 

その道をしっかりと見据えるメイソンの目

「我々は見ているぞ」

その裏には

「新時代を築くために、古い信仰や宗教は必要ない、

必要なものは我々のフィロソフィーだ

せいぜい歩きたまえ。そして疲れたまえ。

新世界を築くのは我々だ」

というようなものか。

 

僕はカソリックでもプロテスタントでもない。

西洋人でもない。

いわば一番カソリックの巡礼地からは遠い種類の人間だ。

しかし

人の信じる力 を信じている。

人の愛する力 を信じている。

人の可能性  を信じている。

人の純真さ  を信じている。

宗教や国籍や人種を越えて励まし称え笑いあえるのがカミーノだ。

そこには多種多様性と目的の統一性がある。

 

無理やり一つのやり方に同化させようとはしない朗らかさがある。

 

だから一つの目に見据えられるのは御免だ。

 

そんな事を妄想しながらゴルフ場に併設されたカフェに入った。

 

施設が充実している。

 

う~ん、矛盾しているようだが

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やはり快適さにはかなわない。

このカフェでWIFIや文明の利器に大いにあやかった。

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新興都市を後にしてサントドミンゴに向かう。

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1時間あまりで到着。

 

ここは聖ドミンゴが作った町。

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聖ドミンゴはナヘラからレディシア デル カミーノまでの巡礼道を整備し

橋を架け、巡礼者の救援施設をつくった人。

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彼の名前から、この町はサントドミンゴ デ ラ カルサーダと名づけられた。

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その恩恵をいまも僕たちが受けることができている。

空海もそうだが、1000年以上前の人の功績がいまも生かされていることに驚嘆する。

街道沿いの人たちの生活を支えているといっても過言ではない。

 

サントドミンゴのカセドラルにはもうひとつ興味深い伝説がある。

 

その昔、夫婦と息子の3人がカミーノの巡礼を行ていた。

ところが、このカルサーダの街で息子が無実の罪に問われ囚われた。

結果、息子は絞首刑を宣告された。

息子を亡くした夫婦は悲しみにくれながらもサンティアゴを目指した。

すべての巡礼を終えて、夫婦はサンティアゴからカルサーダに戻ってきた。

亡き息子に会うために。

しかし

絞首台にはまだ息子の身体があり、まだ息をしていたのだ。

なんと聖ドミンゴが息子の身体を支えて彼を死から守り続けていたのだ。

 

夫婦は役場に行き、その旨をつたえた。

しかし役人はとりあってはくれない。

なおも訴えると役人は

「亡くなったものが生き返るわけはない、

それはまるで目の前にある調理された鶏が生き返るようなものだ」

といって取り合わなかった。

 

すると

 

目の前のテーブルにあった丸焼きの鶏が生きている鶏に変化したのだ。

 

驚いた役人は息子を絞首刑台からおろし、夫婦のもとに息子は戻った。

 

その後、ここのカセドラルでは生きた鶏が飼われている。

それは今もだ。

聖ドミンゴの霊廟の上に生きた鶏を見ることができる。

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小さいが見るべきものがある街、それがサントドミンゴ デ ラ カルサーダだ。

 

今晩 僕たちはアルベルゲではなく、パラドールに泊まることにした。

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スペインに来たならば巡礼中に歴史的な建造物に泊まらない手はない。

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久しぶりにゆっくりとした夜を楽しもう。